テムズ河の潮汐を眺めつつ -330ページ目

会計部門の皐月さんと夕食

皐月さんと初めて会話をしたのは、テムズ河出版で働き始めた週になぜかデザイン部の私の机の引き出しに保管されていた会計部の書類を彼女が回収に来た時です。デザイン部と会計部は離れているので普段あまり接触はないのですが、たまに彼女の隣の机とコンピューターを使う必要がある事があってその度に少しづつ雑談はしていました。

皐月さんは中国系マレーシア人で、香港出身の中国人である旦那様との間の1才8ヶ月の男の子が居るそうです。そしてなんと同じ1970年生まれで、家から徒歩3分の所に住むご近所さんでした。その内近所にあるシティーファームに一緒に子供連れで行くつもりです。前々から会社の外で夕食一緒に食べに行こうと言っていたのですが、今日の終業後それが実現して中華街のマレーシア料理の店に行きました。

皐月さんの話では彼女も私のちょうど1ヵ月前に入社したばかりの新入りなのだそうです。会社の待遇や他の社員の話で盛り上がりました。皐月さんは会計士補なので私の給料の小切手を書いて渡してくれ、当然私が正社員契約ではなくてフリーランス契約なのを知っています。彼女が言うには、他の社員は全員私が正社員として働いていると思っているそうです。確かに毎日会社に来て9時半から5時半まで働いて、有給休暇もあるし、給料の支払いは月末毎だし。

彼女の場合は6ヵ月間の仮契約期間付きの正社員契約だそうです。最初の6ヵ月間は彼女側からも会社側からも仕事の質や雇用環境などに不満があれば1週間と言う短い予告でお互いに契約が打ち切れる事になっているそうです。この仮契約期間を過ぎたらお互いに契約打ち切り対場合は1ヵ月などもう少し長めの予告が必要になります。

彼女は自分の役職名が会計士補なのが不満で、勤め始めて丸3ヵ月が経ったらそれを会計士に変えて貰い、昇給もお願いするそうです。実際部長と彼女の他に会計士がいる訳ではなく、2004年の8月に前の会計士が病気で退職してからめちゃくちゃになっていた書類などを過去2ヵ月で全て整頓して管理を完璧にしているのは彼女だからです。今はその昇給願いに先立って自分の価値を証明するために日々努力しているそうです。実力、自信、賢明さを全て併せ持つ女性だなと感心しました。

彼女もなぜ私が彼女の様な仮契約期間付きの正社員契約ではないのか理由がわからないそうです。適役でないと判断して解雇したい場合の解雇し易さはどちらも変わらないからです。敢えて言えば私をフリーランスにして置く事によって、4ヵ月分の雇用保険税か何かは節約はできるそうですが、それもたったの計16万円ほどです。フリーランスで働く場合の税金の払い方、会社との雇用契約の交渉のしかたなども教えてくれるそうで、親切な人です。

今夜の会話で一番驚いたのは、彼女が採用された時に、その給料は前の会社でも貰っていたのとキッチリ同じにされたと言う事です。そうするために、テムズ出版の社長達は彼女の前の会社に連絡を取って給与明細の写しまで入手したと言うのです!もちろん新しい雇い主が面接を受けに来た人の前の会社に勤務態度、会社への貢献度、病欠の程度などを問い合わせるのは普通だし、彼女の給料のおおよその金額を聞くのもひょっとして意外によくある事なのかも知れません。でも彼女の元上司の言葉をそのまま信用するのではなく給与明細の写しまで送らせるって一体どういう事!?それに同意した彼女の元上司も上司です。

私の前の上司(=社長)はそういう情報はどちらかというと彼女の会社の内密の情報と捉えているだろうと思います。新しい雇い主が、面接に来た人の実力を自分で見極める事によって支払う給料の額を決めるのではなく、実際にする仕事の内容が全く同じと言う事はないはずなのに前の会社から給与明細の写しまで送らせてその金額に機械的に合わせるというのは人として守るべき道を外れていると思います。私の前の上司は私や私の家族がどうしているか気にしてくれているようなので、近々近況を知らせるメールを書いて、この一件についても触れて置こうと思いました。

一平太さんの不思議な歩き方

月曜の朝です。最寄りのバス停で下車し、会社近くの公園の中を通り抜けていました。この公園は小さいのですが児童公園やテニスコートも5面あり、ちょっとした木々や芝生が広がりお昼のサンドイッチを摘むのにちょうど良いベンチもたくさんあります。この公園の出口近くで前方の通りを一平太さんが会社に向かって右から左に歩いて行くのに気が付きました。それが不思議な歩き方なのです。もし彼の下半身が見えなかったら動く歩道に立っているのではないかと勘違いしてしまうほどに上下動が一切ないのです!頭の高さが一定でスーッと私の視界を右から左に横切って行きました。前回似た様なシチュエーションで会った時は気づいたら彼が目の前に立っていたので歩き方は分からなかったのです。初日にお昼を御馳走になった時も一緒にパブに行くのに歩いたけれど気がつかなかった。たぶん一人で急いで歩いている時だけそういう歩き方になるのかな。

給料支払い遅延

昨日一平太さんは、会計部門長の信之介さんは2日もしたら職場に戻って来ると言っていましたが、なんと今日信之介さんへのお見舞いのカードが廻ってきましたよ!詳しい事は聞きませんでしたが、彼は風邪などで休んでいるのではなく、どうやら予定されていたおなか関係の病気で手術を受けたようなのです。彼が病欠を始めてから約1週間ほど経ったけど、今日お見舞いのカードが廻って来るようでは一平太さんの言う通り明日職場復帰するとはとても思えません!

そして案の定この週一杯信之介さんは病欠、翌週月曜日は祝日だったので、結局彼が復帰したのは5月の31日の火曜日でした。復帰早々の信之介さんに仕事の催促してはかわいそうだと丸2日待ちましたが、とうとう3日目の6月2日の金曜日に一平太さんにその後約二週間前に質問した件どうなっていますか?とメールで聞いてみました。

一平太さんは私がまだ給料の支払い受けていないの知らなかったようですぐ信之介さんと話をつけ、私が簡単な請求書を作って信之介さんに渡し次第小切手をくれる事になりました。契約書は作らないけど試用期間の4ヵ月の終わりに採用不採用の決断して貰う事を確認し(それ以上だらだらと延長する事はなく)、1ヵ月につき1日半の有給休暇を取るか、取らずにその分給料として支払いを受けるか選べる事、そして正社員とした採用された場合の年収の目安について教えてもらいました。

一平太さん休暇から戻る

朝の通勤途中、もう少しで会社という所でバッタリ一平太さんに会いました。私は彼が休暇中何をしていたか知らなかったので、「休暇はどうでした、リフレッシュできましたか?南国の浜辺でリラックス、それとも山登りとかスキューバダイビングとか活動的な事をしていたんですか?」と聞きました。そうしたら彼の返事は「コルシカ島に行って来たんだ。」の一言でした。がくっ。

出勤初日にパブに食事に連れて行って貰った帰りにも、その少し前にデザイナーの蒼哉さんには小さな娘さんがいるという話題が出ていたので、隣をあるいていた一平太さんに「お子さんはいらっしゃいますか?」と聞いた時も、「あ、いないよ。」の一言で終わりでした。まるで故昭和天皇陛下の様です。園遊会で招待客に色々話しかけられても返事が全部「あ、そ。」じゃなかったでしたっけ?この時は触れてはいけない事に触れてしまったかもと思ってそれ以上話しかけませんでした。

これだけ会話が続かないというのは単に口数の少ない人なのか、それとも私と話したくないのかどちらなんだろうと密かに悩みました。今回は「コルシカ島と言えばナポレオンの出身地ですね。」と話を振って見たら俄然饒舌になって「そうそう、どこの土産物屋に行ってもナポレオングッズでいっぱいで・・・。」と話してくれました。ホッ。どうやら単に口数の少ない人のようです。

試用期間延長の話については、フリーランスで働く友人の助言を元に夫の手助けを得て雇用契約書、給料の支払い、社員として採用された場合の給料の目安について知りたいとメールを作成して一平太さん宛に週末に送ってありました。それを読んだ一平太さんから、最初の2点については会計部長の信之介さんに手配を頼み、最後の1点については社長の一人、巌さんに連絡しておいたと返事がありました。

信之介さんは先週の後半から病欠中なのですが、2日もしたら出社して給料の支払いの手続きしてくれるからと言う事でした。私も勤め出して1ヵ月と1日目の先週の25日は社員の給料日だったようで、社長の輝明さんが1人1人に明細を配って歩いていたんですよ。一平太さんも事前に私のお給料に支払いの手続きしないで休暇に出掛けちゃうなんて配慮が足りな~いと思いつつそれを眺めていました。

職場観察一般

昨日友人の秀真さんに話していた事なのですが、突然の試用期間大幅延長の知らせ以外は新しい職場での仕事をなかなか楽しんでいます。前の職場では約6年間いた内最後の3年半は事務所長と私の2人だけだったので25人も社員がいる職場は新鮮です。規模が増えれば仕事上の知識を交換したりお友達になったりできる人が居るかも知れない反面、部門内でまたは部門間でも仕事上の争いなどがあるのではと予想もしていました。

私のいるデザイン部門で気がついたのは皆あまり挨拶をしない事です。仕事以外の雑談をする事もほとんど無いので、丸3週間経った今も趣味やら家族やらとにかく私生活に関することはほとんど知りません。例えば月曜日だったら自然に「おはよう、良い週末だった?」とか会話をするものだと思っていましたが。机の配置が、全員お互いに背を向け合うようになっているせいでしょうか。浅い付き合いは良いのだけれど、やっぱり出社退社時の挨拶位はしたいと思って私は同僚達の側まで行っておはようとかさようならとか言っています。他の部門ではお互いに自分がお茶をいれに行く時には周りの人達にも「お茶いる?」と声をかけているけど、デザイン部門ではそれも一切ありません。

隣のプロダクション部門では社内で一番若いと思われる絵奈さんが30代後半に見える史彦さんと始終言い争いをしている様だし、また2人でしきりと誰かの文句を言っています。私の耳にはShe(彼女が)という音しか聞こえて来ないので「彼女って誰?私?」と心配になります。入りたての私がそこまで怒りを掻き立てる迷惑はかけていないはずと思うのですが。2人の間の言い争いはよく見てると仲が良いからこそのものの様です。兄と妹的な親しさがあるからこそお互い心置き無く不満を口にできるのでしょう。

絵奈さんは若いイギリス人の女の子によく見かける格好をしています。ローウエストのジーンズにタンクトップといった様な格好なのですが、ぽっちゃりしているのに選ぶ洋服のサイズが小さ過ぎるのかそのカットが体型にあっていないのか、トップとボトムの間から生っ白い腹肉、背肉が全面的にはみ出していてミシュランマンのようなのです。服装ついでに言うと、史彦さんはセールス部門の社員達と違い、クライアントに会う日がある訳ではないのですが、カジュアルな服装の日もあればびしっとスーツにネクタイで決めて来る日もあります。どうしてなのかな。単に両方の服装が好きなのかしら。

当たり前ですが勤務時間中は黙々と働いているので社員の人達と個人的な会話をするのは朝夕の通勤時にたまたま会った時くらいしか機会がありません。それでも少しずつどんなキャラクターの人達なのかな、とは分かってきます。基本的に酷く否定的なエネルギーを発している人はいません。皆常識的な感じの良い好きになれる人達です。

あ、あともう1つ良い兆候と言えるのは受付兼総務係の夏那さんが終業の10分前になると鍵束を持って窓を閉めて周り、鍵をかけ始める事です。このオフィスは冷房設備が無く(新築なのに!)夏は大変暑くなるそうです。この季節でも全部窓を閉めたら空気がむっとする感じです。私はフリーランスの契約時間(=社員の終業時間)が来るとさっさと退社していますが、私は一人ではありません。残りの皆が何時頃退社するのかは分かりませんが、あの窓を閉め切った部屋でに長く居残るとは思えません。

フリーランスで働く友人に相談

デザイン部長の一平太さんが休暇中にこの試用期間延長のニュースについて相談に乗ってもらいたくてフリーランスで働く友人、秀真さんと仕事の後待ち合わせしました。彼のアドバイスにより、1、雇用契約書を作って貰う。2、会社から支払われる給料は税引き後の金額なのか税引き前の金額なのか確認が必要。3、社員として採用される場合の年収。例え目安でも聞く権利はあると意見が一致しました。元々は一ヵ月の試用期間後に話し合われるはずだったのですから。

秀真さんはフリーランスでビジュアライザーをしていて、包装デザインの会社などで仕事をしています。私は今年に入ってから計3日ほど2004年末まで勤めていた会社に戻って働いた以外はフリーランスの経験はありません。初めて行くフリーランス先では自分の仕事が気に入って貰えたかドキドキしするね、仕事を依頼して来る人がしっかり指示を出してくれないと困るよね、などと話していました。

例えば、一平太さんの指示はたった一言「この本の装丁を、もっとモダンに。」だったりするのです。でも実際にその仕事に取りかかるには本のサイズ、本の背の幅や綴じ方に変更はないか、対象読者層、注文主の名前、注文主が特に好き、または嫌いな色やスタイルの有無、題名や副題に変更はないか、新しい写真やイラストなどは使えるのか、締め切りはいつかなどの情報が必要です。

他にも新企画の児童書の表紙をデザインを指示された時は、10枚程写真のスキャンを使う様に渡されました。モンタージュを作ったのですが、スキャンの内8割が馬の写真だったので表紙に3匹も馬が登場する事になり、またかなり解像度の低いスキャンが多く荒れた様に見える部分もありました。結局新たに使えるスキャンを探すから、馬は一匹に減らして解像度の低いスキャンは取り除いてくれと指示を受けました。動物は1種につき1匹だけが良いと最初から言ってくれればよかったのに。時間が無駄になりました。

結局は社長、編集、セールス、注文主の誰にも確固としたビジョンが無くて、「とりあえず何か形にして。そうしたら反応できるから。」という場合が多い様で、ある程度の無駄は必要悪で避けられないのでしょう。それは構わないけど、向こうが最初から意識していないけど実際に目にしたら問題外と没にするのが決まっているデザインの作成に時間を取られない様に、これからは向こうが自覚せずに持っている希望を上手に引き出して行く技術を身に付けていかなければと思いました。

試用期間の延長(しくしく)

仕事中に一平太さんにちょっと今プライベートで話せるかと聞かれ一緒に会議室へ行きました。彼に「勤め始めて3週間、感想はどうですか?」と聞かれたので「いや~まずは会社のセットアップに慣れなくてはいけない事もあり、あっと言う間という感じでした。」と答えると、「そうですね、こちらもバタバタしていてあなたの素質を確信する時間がなかったという感じです。最後の週の来週は私は休暇で不在だし。そこで、ですが。1ヵ月の試用期間を更に1ヵ月延長出来ますか?」と言われてしまいました~。

試用期間が1ヵ月から1年の4分の1になるという事です!最初の予測の1ヵ月が足りないと思ったらせいぜい更に1ヵ月延長とか、最悪でも2ヵ月延長計3ヵ月とかじゃないですか、普通?計4ヵ月とは!私はその場ではたぶん大丈夫だと思うけど家でもう少し考えさせて下さいと頼み、給料は4ヵ月後にまとめてではなくて毎月支払われる事を確認しました。そしてそこまで試用期間が伸びる理由は何なのか尋ねましたがまだ私が適任か確認が持てないからと繰り返されただけでした。「あ、大丈夫、心配しないで。もし全く可能性がないと思ったら延長すらしないから。」とは言われましたが・・・。

有限会社テムズ河出版

有限会社テムズ河出版はいわゆるパケジャーと呼ばれる種類の出版社です。本の企画を出し、表紙と内部のレイアウトも見開き2ページほどを見本としてデザインしたものをイギリス国内ばかりではなく、アメリカ合衆国、ヨーロッパ大陸などで行われるブックフェアに持って行き他の出版社から注文を取ります。その契約が結ばれてから初めて実際に原稿、イラストレーション、写真などを購入して社内でデザイン、リプロダクションの仕事をします。それを外部のリプロダクション会社に出して試し刷りをしてから実際の仕事は人件費や印刷費の安い中国へ送って印刷します。仕上がって来た本を注文主に納入して代金の支払いを受けて一つの仕事が終わります。

この会社のデザイン部門の中での私の仕事は、既に印刷されていて増刷が決まった本の表紙の手直しとまだ実在していない新しい企画の本の表紙や内部のレイアウトのデザインです。そしてもちろんその新しい企画が売れたらそれを実際に全部レイアウトします。デザイン部門には私の他に部門長の一平太さん、部門長が休暇の時は代理役を勤める初音さん、そして蒼哉さんがいます。私は4人目のデザイナーとして主に児童書を担当するために採用されました。

会社には1つのフロアに全ての施設と部門が入っています。入り口からまず受付、受付の横には来客用のソファー、男女別のトイレが2つ、そして台所があります。女性用のトイレは車椅子使用者も使える様に広く、手摺等も備わっています。台所にはミネラルウォーターのディスペンサー、湯沸かしポット、電子レンジ、冷蔵庫、食器洗い機の他に食器、カラトリー、各種ティーバッグなどが揃っています。

この受付部分を過ぎると編集部門、デザイン部門、リプロダクション部門、会計部門、営業部門の順で並んでいますが、これらは机の配置で分かれていて机の上の部門ごとの仕切りも腰までの高さなので、椅子に座っていても遠くまで見渡せます。部屋として分かれているのは大会議室、小会議室、コンピューターのサーバーやバックアップの置いてある部屋だけです。社長さんは2人いますが、彼等は会計部門と机を並べて座っています。部屋の一方は上半分が全部窓、もう一方は全部床から天井までの吐き出し窓で、出た所は幅2メートル位のベランダです。庭用のテーブルや椅子が並んでいます。

近辺は職住混合エリアのようで、隣の建物の窓に掛かっているカーテンが明らかに子供部屋と分かる物だったり、居間の赤いソファーとテレビが見えたり、ピカピカのシステムキッチンとダイニングテーブルが見えたりして面白いです。付近は倉庫としての使用が停止されてから寂れるままになっていた建物を改修してオフィスや住居にする工事が盛んです。

テムズ河出版の入っている建物が面している通りにはおしゃれなカフェ、ガストロパブ(ちょっと高級志向の料理に力を入れているパブ)、花屋、トレンディーな靴屋、などが並び、それと共に昔から続いているに違いないGreasy Spoon(グリーシー・スプーン)と呼ばれる庶民的なカフェも健在です。付近はビルの改装、新築ラッシュだから建築現場労働者達などお客さんには事欠かないのでしょう。

この辺りにある会社の種類はバラエティーに富んでいます。出版社、建築事務所、デザイン事務所、PR系の事務所、美術館、ギャラリーなど創造的なものの他にも会計事務所、法律事務所、不動産会社、木材を売る会社などがあります。

ドキドキの初出勤

いよいよ初出勤です。初日から遅刻してはいけないと、時間にかなり余裕を持って家を出ました。始業の15分前に到着してそのまま会社のある建物に入り4階の職場に行き、デザイン部長の一平太さんにおはようございますと挨拶をしました。彼が少し驚いた様な顔をしているので、ひょ、ひょっとして私出勤日を間違えていた?明日からだった?と思い聞いてみたら大丈夫、正しい日付でした。私が少し早めに到着したのと、呼び鈴を鳴らす事無く職場に入って来れたのでびっくりしたそうです。職場のある階に到着するまでに2つ鍵のかかったドアがあり、面接の時は呼び鈴を押して開けて貰ったのですが、今日はたまたま同じ建物の他の会社に出勤する人達と一緒に通り抜けてしまったのです。

始業時間になり、社員やフリーランスでの人達が出勤して揃った所で一平太さんが私を連れて社員一人一人に紹介してくれました。今日は出勤していない人達もいましたが、全部で約25人ほどです。男性と女性の割合は半々位。年齢も結構幅広いです。一番若く見える人で23、4才、34才の私より年上に見える人がたくさんいました。後で名前を覚える助けになるように、部門ごとに紹介された人の名前や特徴を手帳にメモしました。でもあれですね、こんにちは、お会い出来て嬉しいです、とお互いに言った後はあまり話す事もなかったです。もちろん相手はもう仕事を始めているので、長話をしたい訳ではないけれど、何かこうもう一言位言えたら良かったのにな。

午前はコンピューターのセットアップをしたり、会社の仕事の仕組みの説明を受けたりしている内に過ぎ、お昼は一平太さんがデザイン部門の他のデザイナー、初音さんと蒼哉さん、編集部門長の徹乃さんを連れてパブに連れて行ってくれました。とは言っても誰もアルコールは選んでいなかったので私もとりあえず飲み物はコーラを注文しました。

会話はごく普通の話題、例えば先週末にした事など、他の人達が話すのを聞いていました。一応私が彼等のチームに参加する事を記念しての外食だったと思うのですが、以外にも私に対しての質問はあまりなかったです。逆に質問攻めにされても困ると思っておとなしく他の方達のお話を拝聴していました。会話から初音さんはブラジル出身である事が判明しました。結構ポルトガル語訛りが強いのですが、理解するのに支障はなく、私も日本語訛りの英語ですからお仲間が居た方が安心!と思って聞いていました。

後から知ったのですが、この食事代は会社の経費で落ちるそうです。一平太さんに私の会計分はいくらか聞いたら彼が全部払うと言っていたので、「そんな5人分も払ったら1万円位行ってしまうのでは?」と心配していたのでほっとしました。でもその時他の人達は自分の支払い分はいくらかも聞かず、ろくにありがとうとも言っていなかったので不審に思っていました。きっとこういう食事代は経費で落ちるって知ってたのでしょう。

午後は既に発行されているクイズの本のカバーのタイトルなどを変更する仕事をしました。これはちょっと古い物のようで、最悪ではないにしても洗練されたデザインではありませんでした。デザインの変更は頼まれていないので出来ませんでしたが、タイトルの文字の間隔や陰の効果などの量を調節してより眼に優しく美しく見える様にしました。

初出勤前夜

旅の疲れは大分とれ、家の中もそれなりに片付きました。結局娘の香蓮の預け先はまだ見つかっていないので、長旅の直後でかわいそうでしたが夫の透が土曜日に家から地下鉄や列車その他を乗り継いで4時間半の所にある彼の実家に預けて来ました。来週中にチャイルドマインダーさんに復帰の可能性を聞いたり、無理ならば学校の送迎サービスをしてくれるという近所の教会付属の保育園で手続きをします。再来週からは娘を手元に引き取る事ができるでしょう。

明日はいよいよ新しい会社で働き始めます。ついついどうなるかな~と心配したり緊張したりしてしまいます。でも『ローマは一日に成らず』ということわざが真実ならば、逆に『ローマは一日にして衰退せず』とも言えると思います。仕事第一日目に完全に100パーセント失敗して解雇、または会社を潰してしまう事などわざとやろうと思ったってなかなか出来る事ではありません。1995年にシティー最古の歴史を誇るベアリング銀行を崩壊させたトレーダーのニック・リーソン被告だってそれを入社一日目にしてやってのけた訳ではありません。などと自分で自分の気持ちをなだめつつ、明日に備えて早く寝ます!