テムズ河の潮汐を眺めつつ -327ページ目

お食事会(3/4)

私は初音さんと一平太さんの経歴に非常に興味があったので、まず初音さんに「ロンドン在住何年ですか?」と聞いてみました。初音さんはロンドン在住15年になるそうです。サンパウロに居た頃からデザインの仕事は始めていて、その頃手がけたのは映画のポスターで、プレコンピューター時代で全部手作業で仕事をしていたそうです。彼女は日本とブラジルの歴史的関係も良く知っていました。全盛期初頭に日本人が農業をしにブラジルにたくさん移民して来た事、現在日系3世が逆にたくさんに日本に出稼ぎに行っている事も。彼女のおじいさまがヨーロッパ系で、確かドイツ人だと言っていたかな。私のデザインカレッジのクラスメートにも祖父母の代がドイツから来たというブラジル出身の人がいました。そうでなければブラジル人は日本人と同じくイギリスでの永住や就労は難しいです。

「前に営業の哲也から彼はこの8月で入社丸4年で入社当時には他に社員は8人しかいなかったという話を聞いたのですが、初音さんと一平太さんはいつテムズ河出版に入社したのですか?」とも質問してみました。哲也さんと話した時、「な~んだ社員の3分の2が在社歴4年以下か、新顔は私だけではない。」と思ったのですが、やはりそうでした。「この会社では哲也さんは古株なんだよ。」と。去年、2004年の5月に一平太さんが入社、同年9月に初音さんが入社したそうです。デザイン部門の一番の古株は蒼哉さんでした。前にもう1人デザイナーがいて、彼が辞めた時に初音さんが代わりに採用されたそうです。この元社員は今もフリーランスでテムズ河出版の仕事をしています。初音さんが「彼に会った事ないけど嫌い。」と言っていました。これは電話でこの元社員と話した末の感想か、彼の仕事が嫌いなのか聞きそびれました。後者かな。一平太さんが外注する仕事は結構あるのですが、中には「ちょっとこれひどいんじゃない?誰の仕事?」ってデザインが結構あるのです。

一平太さんは39才だそうです。年齢の話は初音さんが皐月さんに「何才?」って聞いたのに始まりました。皐月さんが「当ててみて?」と言ったら20代後半と答えていました。西洋人の眼から見ると東洋人はいつでも実年齢より若く見える様です。私の場合は一平太さんが履歴書見て知ってると言ったのでわざわざ初音さんに当てて貰わず「皐月さんと同じ年。」とカミングアウトしました。初音さんの年は私は聞き逃しましたが改めて聞くのも微妙に私より年上っぽい女性には失礼かとそのままに。一平太さんも初音さんも独身らしくパートナーの話はしていませんでした。蒼哉さんは28才位だそうです。彼は結婚していて小さい女の子が1人います。髪型(?)がスキンヘッドで笑うと目尻に皺が寄るので実年齢より上に見えるけどきっと私より若いだろうなと予想していました。スキンヘッドなのはたぶん若はげのせいでそれならば潔くそり上げようというパターンだと思います。彼の瞳の色は青で、コンピューターのデスクトップの写真の娘さんも同じ色の瞳できれいな顔立ちもよく似ています。

一平太さんは一人暮らしらしく、料理の話の時に料理はほとんどしないと言っていました。「それじゃ例えば夕食には何食べるの?」と皐月さんが聞くと「サンドイッチとかピザを作って食べる。」と。わ、侘し~い。でも彼はまめではあるようで、お昼はいつも家からアルミフォイルにサンドイッチを包んで持って来ています。一日2食サンドイッチか~。続いてお昼の話題の時には皐月さんは「プロダクション部の絵奈さんはいつもレトルト食品を食べている。体に良くない。」と鋭い観察。そこで私も「デザイン部の蒼哉さんの朝ご飯はいつもポテチップスの小袋1つとチョコレートバー1本!」と参加。蒼哉さんと私は2人で1つのゴミ箱を共用しているので、毎日午前中も半ばを過ぎる頃には必ずゴミ箱に入っている空き袋に気がつかずにはいられません。

一平太さんは「僕も実は毎朝チョコレートバーを食べている。」と白状していました。ここで皐月さんと私がイギリスのチョコレートはいかにココアの味より砂糖も味がするか、やっぱりおいしいのはベルギーのチョコレートだ、イギリスで人気のMars Bar(マーズバー)なんて最悪、それだけじゃ不健康さが足りないとばかりにマーズバーに衣を付けて油で揚げておやつとして売るフィッシュアンドチップショップまであるなんて信じられないと完全に意見が一致しました。私の前の職場のチョコレート中毒の同僚の話もしました。午後に疲れて来ると罪悪感を感じつつもチョコレートバーを買いに近所の店に走らずにはいられなかった彼女。私が買って来たキットカットをしばらく消費せずに机に置きっぱなしにしていると「残酷だわ。」と恨めしそうに言った彼女。

お食事会(2/4)

私のテーブルには全部で8人いましたが、私は長椅子の一番右端に座り、左隣が経理部の皐月さん、向かいが同じデザイン部の初音さん、斜め向かいがデザイン部長の一平太さんでした。話題はまずは初音さんの昔のアルバイト先のお話。今でも向こう岸のセントキャサリンズ・ドック(昔の荷揚港、今はヨットハーバーになっていて、周りにはマンションが建ち並ぶ。)近くに存在するtourists' trap(旅行者を捕まえる罠=入り易そうだけど高くて不味い)なレストランでウェイトレスのアルバイトをしていたそうです。レストランのフロアにショーをやる舞台があり、ウェイティングスタッフとお客さんはその日のテーマによって仮装するのだそうです。『中世』がテーマの時にはそれ風の料理がバケツに入ってキッチンから出てくるので、そのバケツから鳥の丸焼きなどをお客さんのお皿に給仕したそうです。「懐かしいからまた行ってみたいけど食事はしないで飲み物だけにしておくわ。」と初音さんは楽しそうに話していました。

その後は主に旅行先の話など。初音さんがタイに行てどんなに良かったか話してくれ、皐月さんもそれに同意していました。初音さんは安全な国を旅行したいので今度は日本に行ってみたいと言っていました。皐月さんは日本は危ない、地下鉄サリン事件があったと初音さんに言いましたが、初音さん滅多に起こる事じゃないから気にしないと言っていました。私はかつての様に「日本では安全と水無料。」とは言えず長引く不況でキレ易く暴力事件や殺人事件を起こす人も多いけど、やはりイギリスに比べたらガンやナイフを持ち歩く人、薬物中毒の人も少ないし安全だと言えると思うと言いました。でもタイなどの観光地と違って英語を話さない人が多いから外国人が個人旅行する時はちょっと苦労するかもしれないな。他に日本関係では満員電車の押し込み係や物価高の話をしました。もう今時押し込み係の駅員なんていないですよね?でもこちらではその時の映像がよほど印象に残ったのか、それを話題にする人が結構多いです。

ここで私は前から気になっていた一平太さんの腕時計について聞いてみました。それはかなり小ぶりで布のバンドには幼い子供が描いた様な恐竜の絵の刺繍がしてあります。全体の色使いはオレンジ、淡い黄色、ライムグリーンです。それは一平太さんがどこか外国にホリデーに行った時に自分で空港で買った物で、スウォッチの子供用時計だそうです。店員さんは最後まで「お子様には・・・。」と話していて一平太さんが自分用に選んでいるとは気づいていなかったそうです。一平太さん、華奢で腕も細いから子供用時計でも余裕で使えてしまうんだろうな。ちょっと話は飛びますが、彼が先日履いていた新しい靴がかわいかった~。黒、カーキ、オフホワイトの組み合わせの表革の靴。ボーリングシューズ風のデザインでした。素敵ですねとコメントしようと思って忘れていた。色違いが欲しい~。ブランド名は見えなかったけど、なんとなくカンペール(Camper。スペインの靴メーカー。イギリスではキャンパーと呼ばれている。)っぽかったです。

お食事会(1/4)

行ってきました~、職場のお食事会に。ザ・チョップハウスという肉料理のレストランで行われたのですが、場所はやはりタワーブリッジ近くでテムズ河に面していました。コンラン卿経営のレストランでした。同僚達とそこまで歩いて行ったのですが、その道程が妙に遠回りでおかしかったです。職場の入っている建物に面した道を真っすぐに北上すればすぐだったのに、なぜかカタカナのコの字を下から一筆書きでなぞる様な経路を取ったのです。東に東に歩き始めた時はこのまま行ったら家に到着してしまうと思いました。雨は降っておらず気温も低過ぎなかったので、お散歩気分で別に良かったのですが。先頭を歩いていた総務の夏那さんと編集の鈴さんはひょっとして方向音痴なのかな。到着した時には私達が職場を出た時にまだ机に座って仕事をしていた営業の人達、2人の社長さん達、カナダから訪問中のビジネスパートナーが、なんともうテーブルについてメニューを見ていました。

夏那さんとパートタイムで児童書の企画販売のアドバイザーとして働く亮子さんは先着の人々のテーブルの空いている席に座り、残りの私達は隣のテーブルに座りました。私の席からはタワーブリッジは見えなかったけど、河の遊歩道に面した掃き出し窓は全開になっていて、行き交う人々や外のテーブルで食事をしている人が見えました。店はかなり空いていました。メニューはセットメニューで前菜、主菜、デザートから1品づつ選ぶようになっていて、飲み物は選べず、水、炭酸水、赤ワイン、白ワインが出てきました。メニューを選ぶ段階で一平太さんが「僕は前菜は要りません。」と言っていました。小食だから前菜食べるとデザートが食べれなくなっちゃうんだって。実は私もそうなんだけど、全部試してみたいので食べきれなくても注文してしまいました。人のお金だし~な~んて。私は前菜に冷たい野菜スープ、主菜に豚肉のリンゴソースがけ、デザートにはイートンメス(Eaton Mess)を食べました。

イートンメスなんて聞いた事もなかったのでデザートを選ぶ時に「イートンメスって何ですか?」と周りの人に聞いたら、デザイン部長の一平太さんが「何、今僕に聞いた?ふ~む、やっぱり僕はイートン校出身の良家の子女に見えるかい?ハハハ。」と反応していました。イートンメスはその名の通り、有名な私立校のイートン校に由来するそうで、ホイップトクリーム、荒くみじん切りにしたイチゴ、やはり荒く砕いたメレンゲをぐちゃぐちゃに混ぜた食べ物でした。年端も行かない頃から(6才位?)から全寮制のイートン校に通うおぼっちゃま達が給食の時間にきれいに飾り付けられて出て来たクリームとイチゴとメレンゲのデザートをわざとぐちゃぐちゃにして食べたのが始まりなのかな。味は良かったです。甘くないクリームと酸っぱいイチゴと甘いメレンゲの組み合わせの妙を楽しみました。

2つのテーブルに分かれて着席していたけど、ワインが出てきた時には一応全員に向かって社長さん達から一言、とかまたは乾杯の音頭などがあるのかなと思っていましたが何もなし。社長とセールスと総務の座るテーブルと、編集、デザイン、プロダクションの私達が座るテーブルの間ではほとんど交流はありませんでした。別に良いんだけど、親睦を図るというのがお食事会の目的だと思ったのに。まあ日本のお座敷と違って自分の席を立ってあちこち移動して座るというのも椅子席だと難しいですしね。それと他に日本の会社の宴会と違うのはお酒をお酌しあう事がない事です。ウェイティングスタッフ達が回ってきて次々とグラスに飲み物を注ぎ足してくれるからです。

ご近所づきあい

娘の香蓮は平日は9時から3時までは近所の公立小学校付属の保育園に通い、登校前と下校後の私達が不在の時間帯はやはり近所の私立保育園で預かって貰っています。私立保育園では地域の複数の学校に通う子供達を預かり学校の送迎をしています。という訳で香蓮は自分の小学校に通う子供達、他の学校に通う子供達、さらにその保護者達とまで知り合いになっているようです。親の私達よりもよっぽど顔が広いのです。週末一緒に近所を歩くとしょちゅう通りがかりの人と挨拶を交わしますし、児童公園に行くとそこで遊んでいる子供達の名前を全部知っていたりします。

もし私達が夫婦だけで暮らしていたらご挨拶だけの近所付き合いだったろうけど、香蓮は向かいの建物の庭で寛いでいるご近所さん、階段で会う同じ建物に住むご近所さんなどにどんどん話しかけるのです。階下の世話好きな奥さんのいるお宅には呼び鈴を押して自らを招待してしまいます。向こうは大丈夫と言ってくれていても、さすがに夕飯の支度時に長居しては迷惑だろうと夫が30分後に迎えに行くと、階下のお宅の人が家事をしている間寝室のベッドに座ってテレビを見ていたそうです。テレビ位家にもあるってば。なんでわざわざ人に家に行く~。

この階下のお宅は、ゴミ置き場所のドアが目の前のあるせいかゴミの管理に熱心です。ゴミを捨てに行くにもなんだか監視されているようで最初はちょっと嫌でしたが、紙や瓶や缶のリサイクルの箱を市の指定の日にゴミ置き場から出してくれたりするのに気づいて考えを改めました。階下の奥さんが家の建物とテムズ河の間に割と最近建ったマンションの階数を減らす運動の中心人物だった事も知りました。同じ建物に入っているのは家を含めて6軒で半分は賃貸ですが、住人は概ね常識的でひどい騒音を出したりする人はいません。以前10過ぎに誰かがDIYで金槌を使っている音がした時はさっそくこの階下の奥さんが苦情を言いに行っているのが聞こえました。なんだか管理人さんみたいで頼りになります。

最近近所に引っ越して来たお宅のお子さんは香蓮と同じ小学校付属の保育園に通っています。そのお友達とはお互いにベランダや庭から呼んで遊びに誘いあいます。他のご近所さんに迷惑だから3回呼んでも返事がなかったらあきらめなさいと説明していますが。日曜日の夜9時過ぎに「香蓮!か~れ~ん!」とお誘いの声が聞こえたのには困ってしまいました。平日の夜は香蓮は8時過ぎにはベッドに入るのです。寝た子を起こさないで~!!!呼び声が続く様だったら「香蓮はもう眠ちゃってます。」と電話しようと思いましたがやがて静かになりました。

今日は香蓮は玄関前のバルコニーにいて、帰宅して来た上階に住むご近所さんと最近観た映画の話(=『チャーリーとチョコレート工場』)をしていました。この上階に住むご近所さんに私達は密かにジャービスさんとあだ名を付けています。パルプというバンドのリードシンガー、ジャービス・コッカーさんに似ていて、格好や髪型が60、70年代レトロ風のおしゃれさんなのです。彼は美容師として働いているそうです。彼と同居しているのは同じ30才前後の似た様な趣味の男性で、最近はその同居人のオリエンタル系の彼女もほぼ同居状態のよう。香蓮との会話の後家に入った直後にジャービスさんと彼の同居人はかなり激しい口論を始め、それが開いている窓から聞こえて来ました。娘が「うるさくて耳が痛いから喧嘩辞めて!」と上に向かって言ったので慌てて娘の口を塞いで家に収容しました。

ジャービスさん達は何で喧嘩をしていたのでしょう。夫は「三角関係?」と言ってましたけど。そうなんです、私達未だにジャービスさんの彼女を見かけた事がないのです。かといってボーイフレンドらしき人を見た事も無く、彼がゲイなのかストレートかは分かりませんが。夫は今日喧嘩してた時のしゃべり方が自分のゲイのお友達に似ていると言っていました。ま、私達には関係ないけれど。私達も結構ゴシップ好きです。上階の喧嘩はすぐに仲直りして収まったようで良かった良かった。ジャービスさんの同居人のオリエンタル系の彼女はどうやら日本人ではなく、でも英語に訛りがあります。どこの国出身の人かなあ。

皐月さんのお誕生日

水曜日の社交食事会はテムズ河沿いにあるバトラーズ・ウォーフという建物の1階に入っている『ザ・チョップ・ハウス』というレストランで行われるそうです。それにしてもこれバリバリの肉料理のレストランだよな、名前からして。社員の中にベジタリアンはいないのかしら。それともベジタリアン人口の高いイギリスの事、肉料理屋さんにもベジタリアンメニューがちゃんと用意されているんだろうか。

ここの所寒くて私は長袖シャツにやはり長袖のウールのカーディガン着て通勤しています。さらに寒くなった時のために薄手の上着までかばんに忍ばせて。事実先週は一回あまりに寒くてこの上着を着用して仕事していました。さすがに他の社員から注目を集めてしまい、親切な一平太さんは最寄りの掃き出し窓を閉めてくれました。この天候でも私のように重ね着している人は少数派で半袖で平気な人がたくさんいます。寒さに強いなといつも関心しちゃう。

水曜日のレストランの屋外席からはタワーブリッジが眺められるだろうから、気持ちよく屋外席で食事ができるように少し気温が上がってくれると良いのにな。イギリスのレストランやパブでは屋外ヒーターを備え付けている所も多いです。せっかく屋外席があっても夏でも寒過ぎて使えない事が多いので、ヒーターをつけて寒さがしのげるようにするのです。私はもちろんヒーターがあったらその隣の席をゲットしなくては~。

朝台所で一緒になった皐月さんに聞いたら彼女も出席するそうで良かった。彼女も「弥生も来るのよね?」って聞きたいと思っていたそうです。ところで今日は彼女の35才のお誕生日だそうです。おめでとう!!!「もう公式に高齢出産の域に入ってしまった。来年には2人目の子供を産みたいわ~。」って言っていました。彼女の第一子の男の子は7月20日に満2才になった所です。

弥生さんとはまた2人でお食事にでも行ってゆっくりお話したいです。彼女が前に言ってた「私は働いているけど別にキャリア志向はないのよ。興味の持てる仕事をして残業がなくてそれなりのお給料が貰えればそれでいいの。私の生き甲斐は会社ではなくて家庭の中にある。」っていう言葉にはとても共感してしまう。私も別にマネージャーとかになって部下を持ってガンガン働きたいとは思わないのです。

実はそれは私の夫にも当てはまります。マネージャーにならないかいと誘いを受けたけれどマネージャーになると当然の事ながら実務よりも人やスケジュールの管理が仕事の中心になるけどそれには興味がないし、お給料も上がるけどそれとともに残業する事を期待されてしまうし。将来また考え方が変わるかもしれないけれど、とりあえずはこのお誘いは断りました。

数独ブーム

朝の出勤時に会社のある建物に入った所で、今週は2回も営業部の哲也さんと一緒になりました。その時に聞いたのですが、彼はこの8月で在社丸4年になるそうです。入社当時は他に社員は8人しかいなかったそうです。4年間の間に従業員数が3倍になるなんて大成長です。「僕のセールスのお陰だよ!」と自信一杯に言っていました。きっとその通りなのでしょう。また、当時はパズルの本ばかりを出版していたそうです。今でもクイズやパズルの本を扱っているけれど、その他にも美術、歴史、レジャー、心理学、精神世界、リファレンス、児童書などを出版しています。

パズルの本と言えば、今イギリスでは日本の『数独』という名前のパズルが大ブレイク中なんです。私はこの会社に来るまで全く知らなかったけれど、会計部の皐月さんも「大ファンなの。」と言っていました。去年の11月にタイムズ紙上でこの国に初紹介されて以来、今では大手全国紙4社が数独パズルを載せるまでになったそうなんです。従来ならクロスワードパズルを掲載していた生活娯楽面にでしょうかね。「このブームが本格化する前に滑り込みで関連本を市場に出して儲けよう!」って事で過去3ヶ月間『数独とその他の日本のパズル』、『初心者のための数独』、『数独解法』など次々とカバーとページデザインの仕事が来ました。

この数独ブーム、ヨーロッパや他の英語圏でも広がっているようで、テムズ河出版ではデンマーク語版、オランダ語版などの翻訳版もビシバシ契約を取り付けて売りさばいているようです。パズルは日本のパズル専門の出版社から供給されているようですが、テムズ河出版はそこと直接契約しているわけではなく、間にエージェントが1社入っています。という事情で、特定の著者がいる訳ではありません。

でも著者名があった方が売れるからか何なのかは知りませんが、編集の人が本の表紙に載せるのに適当な日本人っぽく響く名を考えていました。私は日本人なのでちょうど良いと「ねえ、Yukio Fujitsuって名前はどうかしら?」と意見を聞きに来ました。由来は聞かなかったけど富士通はあの電子機器メーカーの富士通、ゆきおは英語にも訳されている三島由紀夫辺りから思いついたのでしょうか。「う~んYukioは良いけどFujitsuはあまり一般的な名字じゃないですよ。」と答えて英語だとスミスさんにあたる様なごく一般的な名字をお薦めしておきました。

イギリスでは「日本から来た数独」と宣伝しているけれど、このパズルの本当の出所はアメリカで、現地で『Number Place』と呼ばれていたのを株式会社ニコリが見いだして1984年に日本に紹介したそうです。この会社のホームページには数独以外にもたくさんのパズルが紹介されています。興味のある方は訪ねてみては。意外にはまってしまうかも知れません。http://www.nikoli.co.jp/index.htm

木曜日の不安

7月7日の同時爆弾テロから3週間、21日の同時爆弾テロ未遂からちょうど1週間の今日。昨日から「明日は木曜日か~。ちょっと心配だな。」と思っていました。今朝いつものようにバスに乗って通勤しましたが、窓から見えた地下鉄の駅の改札口周辺には数人の警察官達が警戒していました。テロ以前は警察官は駅には留まらず巡回に来るだけだったし、テロ後もせいぜい二人一組で警戒している位だったのに。やはり警備の程度を上げているのだと思いました。

職場に到着して同僚達と「木曜日が来たね、また。」と話していたら、絵奈さんは「私なんか通勤途中でバッグの中身を調べられたわよ。」と。蒼哉さんは「どう見ても自爆テロしそうなタイプに見えないけどね。」と感想を述べていました。その後一平太さんも出勤してきて、「警官に呼び止められて手荷物検査とボディーサーチをされたよ。」と言っていました。そして「でも、途中でブラジル人ではないって分かった所でもう行っても良いって言われたよ。」と。編集の人はすかさず「ブラジル人でないって分かったら銃を突きつけるのを止めて仕舞ってくれたのかい。」と返していました。(一平太さんの話、後半は少々不謹慎な冗談です。念のため。)

多くの学校が今日から夏休みです。公共の乗り物には通勤客の他に行楽の親子連れも増えるでしょう。早くテロの犯人達が捕まって安心して公共の交通機関が使えるようになりますように。もちろん今回の実行犯や黒幕が捕まってもそれで一件落着ではないけど。その背後に次々続くであろう自爆テロを辞さない人々の思想がどうして生まれるのか問題の根源を見極めて、それを解決するようにしないと。

昼休み

テムズ河出版の昼休みは1時から2時の間です。近所の小売店にサンドイッチなどを買いに行く人もいるけど、大多数の人は家から昼食を持参しているようです。タッパーにパスタやらサラダやら詰めて持って来る人、サンドイッチを作って来る人、缶詰のスープや電子レンジ食品を暖めて食べる人。インスタント食品もちゃんとお皿に盛りつけて食べているみたい。終了間際に食器洗い機にマグカップやコップを片付けに行くとお皿、ナイフ、フォークなどが結構入っています。ちゃんとお皿に盛りつけて食べるなんて豊かな生活だなと感心しています。

逆にイギリス人は私のお弁当に感心してくれます。とは言っても中身にではないけど。中身は日本のお弁当にはほど遠く大抵一品料理なので。細々と仕切って数種類もおかずが入っていて、調味料まで小分けにして付けてある日本のお弁当見せた日には大感動されるに間違いないですけど。イギリス人(とその他の外国人)に注目されるのはお弁当をハンカチで包む習慣です。テムズ河出版だけではなく前の会社の社長、同僚、または会社が入っていた建物の共有の台所ですれ違った他の会社の人達まで「お弁当、いつもハンカチで包んであるんだ。文化的だね。」って言われるのです。

日本だと普通の事なのにね。ではこちらではどうしてると思って見てみるとそのままだったりレジ袋に入れたりしています。今時のプラスチックのお弁当箱は蓋がきちんと閉まっていれば汁も漏れないし、余程の事がなければ鞄の中で他の物に当たって蓋が開くなどという事もないから、ナマで入れても大丈夫だけど。でもフォークやお箸を一緒にしておけるし私はハンカチに包むのが好きです。

お昼を食べる場所は大抵自分の机です。そう言えば会議室が空いててもわざわざ会議室に集まってお弁当食べる習慣はないです。他の会社はどうなのかな。今度お友達に聞いてみようと思います。天気の良い日には椅子とテーブルのある大きなバルコニーがあるのでそこで食べている人もいます。日差しが強過ぎる時のために、日除けのパラソルもテーブルに備え付けてあります。部内のミーティングなどはたまにバルコニーでしています。

ただし、見える景色は向かいのマンションの居間なのです。この辺り、急速に古い倉庫が住宅に改装されたり、新たにオフィスビルディングが建てられたりしているので工事の音も聞こえます。それでも4階建ての建物の最上階なので、ご近所さん達の中庭の緑を見下ろしたり、青空を見上げたりするのはとても気持ち良いです。

試用期間終了まで1ヵ月を切る

一昨日の金曜日は社員の給料日でした。たぶん給与は銀行振込になっているのでしょう、会計部の皐月さんが給与明細書らしき物だけを皆に配って歩いていました。私も1ヵ月分づつ請求書を作成して会社に渡して小切手で支払いを受けています。期日は25日から翌日の24日までですが、今月は24日が日曜日なので金曜日に請求書を会計部に提出しました。この会社で給料の遅配があったのは初回だけで、それ以降は請求書を渡した当日に小切手を貰えていて今回も例外ではありませんでした。

さて、これで4ヵ月間の試用期間終了の8月24日まで1ヵ月を切りました。果たして私の仕事はどう評価されていているのでしょうか。一平太さんはあまり感情を外に現さないので分かりにくいのですが、私のデザインを見せると「これ、とても良いね。」とか「うまく機能している。」と言う事が多くかなり気に入って貰えてはいるようです。たまに一平太さんは私のデザインが好きでも社長の巌さんが納得しない時もあります。彼の言い分が最もな事もあるのですが、たまに賛成しかねる変更の指示もあります。そういう時は私はなぜそれはデザイン的に良くないのか説明して他の問題解決法を提案するのですが、それに一平太さんはいつも賛成してくれます。必ずしも巌さんを説得する事はできないけれど。というのも巌さんは営業サイド担当の社長さんなので、ついつい前に良く売れた本のデザインに固執してしまうのです。例えそれがうまく機能していなくても。まあ、その気持ちも分かりますが。そこを何とか巌さんの趣味を満たしつつデザイン的にも素敵な本の表紙や中身のデザインをする挑戦は楽しいです。

テムズ河出版では既に出版した本を、他の顧客の要望に合わせて内容はそのままでフォーマットだけ変更して再出版する事も多いです。そうすると例えば元は縦長だった表紙のデザインを出来るだけ保ちながら新しい真四角のフォーマットに移し替えたりします。単純作業と言えば単純作業ですがこれがまたパズルみたいで面白いのです。いかにデザインを保ちつつ全体のバランスを良くするかが知恵の絞り所です。また、フォーマットは同じままで単に副題を替えるだけ、という仕事の場合でも普通の人は気づかないだろう文字間のスペースのちょっとしたアンバランスを整えたり、色の微調整をしてより見栄えのするデザインにする事にやりがいを覚えます。

少し話がずれました。私の仕事がどう評価されているかでした。前の職場での場合は、デザインカレッジ終了後最初の仕事というのもあり採用時の給料は非常に安かったのですが、勤め始めて1ヵ月ほどで私の会社への貢献を認めて年収を1.3倍に引き上げ修正してくれました。それに比べてテムズ河出版では何事もフットワークが遅いようです。給料も最初の支払いは手間取って2週間も遅れたし、勤務時間の変更は特別に一時的措置として即日許可されてからもう1ヵ月以上も経つけど「他の社員達の意向も聞いてから最終決定。」っていうのは実行されていないし。先日の一平太さんからのメールには「デザイナーの蒼哉さんが9月の半ばに休暇を取ります。フランクルフルト・ブックフェアー直前なので自分を含む残りのデザイナーはこの時期に休暇を取らないようにした方が良いです。」とありました。9月の半ばと言えば私の試用期間はもう終わっているけどこの連絡の内容からして、一平太さんはその時点で私はまだ働いていると思っているのかしらなどと考えてしまいます。前の会社の社長さんのように私の事気に入ったなら非公式で良いからさっさとそれを教えてくれたら私の心ももっと安まるのですが。

結局もう少し試用期間終了の日が近づくまで待つしかありません。しかしな~んとなく私の4ヵ月の試用期間終了が近づいているという事さえもすっかり忘れ去られている予感がするので、皐月さんやフリーランスでビジュアライザーをしている友人の秀真さんとも交渉の心構えについて相談した上で契約終了の1、2週間前には一平太さんさんに「ところで試用期間終了が近いのですが・・・。」と聞いてみようと思っています。その一方で8月24日に不採用を告げられても困らない様にまた他の会社への応募を再開します。

いくつかの些細な出来事

最近ロンドンでは重大なテロ事件が続いて起こっているせいでしばらく書かずにいた職場内のちまちました出来事を少し記録しておきます。

デザイナーの蒼哉さんは普段からラジオを聞きながら仕事をしているので7月7日もテムズ河出版でいち早くテロの発生を知りました。「地下鉄で爆発があったらしいって。」と言う口調もあまり大げさではなくて彼らしいと思いました。その日の昼休みにコンタクトレンズをなくした時も「あ、コンタクトレンズが外れて飛んで行った!レンズ高いのに。」と困っているはずなのにつぶやくような声で非常に控えめでした。隣に座る私はそれを聞きつけましたが。蒼哉さんにはじっとその場に動かず立っていて貰って私は足下を確認しながら椅子を離れて周囲のテーブルや床の表面を探したら、ありました!床にキラリと光る物体が。「助かったよ~、コンタクトレンズ入れてないと本当に何も見えないんだ。どうもありがとう。お礼にチョコレートでも買わせて。」と感謝されました。お役に立てて嬉しかったです。ところで、正式採用されたら私もイヤホーン持って行って音楽を聴きながら仕事をしようと夢想中です。

先週会計部が移動しました。皆と一緒の大部屋から会議室の隣の小部屋に移動したのです。事前にオフィス家具の業者が来て机や引き出しを3席分組み立てて行きましたが、使うのは今の所部長の信之介さんと皐月さんの2人だけです。ドアを開けて入った所にドアに向かって信之介さんが座り、その後ろは一面の窓です。皐月さんの席は右手奥で、背後は壁で誰にも肩越しにコンピューターのモニターを覗かれる心配はありません。羨ましい!彼女はテムズ河出版での仕事の後には毎日バスに揺られて20分の所にある最近オープンしたばかりの旦那様経営の店の手伝いに行っています。中華料理の出前専門店です。そうでなければご近所さんである彼女は出社時間よりも随分早めに出勤するので、他の人より30分早く仕事を始めるために出勤する私と同じバス停から同じバスに乗る事がしばしばあるのですが。次に一緒になるのは何時かな~。彼女の賃上げ要求の結果がどうなったのか知りたいし、私が8月末に交渉しようと思っている給料の額も野心的過ぎないか彼女の意見を聞いてみたいのです。

先週末のパリ旅行は職場の誰にも言っていなかったので皐月さんに杉や緑茶の香りのロウソクや石けんをおみやげに買った以外は何も買いませんでした。他の人に内緒で皐月さんにおみやげを渡したら「ありがとう。でも次回から私にお金をかけないでね。」って。「出前のお店の中華料理を味見させて貰ったりその他にもお世話になっているから、気持ちだけよ。」と説明しました。その後台所で他の同僚に「良い週末だった?」と聞かれた時には、「ええ、とても良かったわ。」と答えるのみで後は言葉が続きませんでした。おみやげはないからパリ旅行は秘密にして置こうと思い、ロンドンも天気は良かっただろうから適当に「お天気もよかったしね。」とか言えば良いのに嘘はつきたくないしなどと考えていました。その内に「あなたの週末はどうだった?」と聞き返すタイミングまで逃していて、無愛想な人と思われてしまっただろうかと少し落ち込みました。でもこの一回の会話で私の全人格が判断されるはずはないと思い直し、夫にもこの話をしたら「弥生の事だからたった一言でもいつもの柔らかい調子で言ったはずだから相手に不快感なんて与えていないよ。」と言われて安心しました。「それにしてもおみやげなんて誰も気にしないからパリの事話せば良かったのに。」とも。

やはり先週の事なのですが、デザイン部長の一平太さんのモニターが突然臨終を迎えました。まだ1年半しか使っていない旧式のCRTモニターでした。さっそく私が使っているのと同じLCDのモニターを注文していました。届くのを待つ間自分のマシンが使えずに不便そうでしたが、ピカピカのモニターが届いた時にはいつもはかなり無表情の一平太さんもさすがに嬉しそうでウキウキした様子でした。他のデザイナーの初音さんも「私のモニターは画面の端と中央で色が違う~!新しいの買って。」と様子を見に来た会計部長の信之介さんにおねだりしていましたがあえなく却下されてしまいました。信之介が去った後に「この後原因不明のモニターの故障が続きそうな予感だね~。(=信之介さんが見ていない所でわざと壊す。)」などと冗談を言っていました。デザイン部は最新のマシンを使い、そのお下がりはプロダクション部に行く模様です。編集部は主にテキストを扱い画像は扱わないので I Macや E Macなど安いけどあまりパワーのないをマシンを使っており、会計部、営業部、社長さん達はPC(ウィンドウズのシステム)を使っています。

会計部長の信之介さんと言えば最近プロダクション部の絵奈さんや彼女と仲の良い編集部の氷左恵さんが冷蔵庫をもう一台買って欲しいと信之介さんに頼んで却下されたとぶつくさ言っていました。「私ら6人だけの時から使ってる冷蔵庫で、今はその4倍以上の人数が働いてるのにねっ!」と。私はその総勢6人というのは何年前の事だろう、その6人は誰だろうと考えていました。話していた張本人の絵奈さん、社長の輝明さんと巌さん、編集部長の徹乃さんで4人。そしてたぶんプロダクション部長の嘉帆さん。残る1人はデザイナーかな。でもデザイン部長の一平太さんはあまり古株っていう感じじゃなさそうなので、既に辞めた人かも。テムズ河出版の台所の設備はかなり整っていますが、確かに冷蔵庫は小さいです。ちょっと話はずれますが、台所には食器洗い機がついているせいか皆さん家から野菜やハムなどを持って来て、台所でちゃんとお皿に盛りつけてから食べています。パック入りのスープやレンジフードなども。そういう所、文化的な生活だなと思いました。

今週私は他の社員が全員使っている一斉メールのシステムに登録されていない事を初めて知りました。メールプログラムでも一斉送信の設定はできますが、この一斉メールのシステムはインフォで始まるアドレスに社内外からメールを送ると自動的に登録してあるアドレスに一斉送信されるようになっています。皐月さんがさっき送ったメール見たかと聞いて来たのに私の所には何も届いていない事から私のシステム未登録が発覚しました。道理で。な~んで皆今日は営業の俊さんは外回りで直帰とか言う情報知っているのかな不審に思った事はあったのです。皐月さんもしばらく登録されていなかったそうで、彼女の勧め通りさっそく信之介に登録を頼んだら来ましたよ。一斉連絡のメールがたくさん。働き始めて丸3ヵ月近くも蚊帳の外だったなんて~。別に仕事に支障はなかったので気づかなかったのですが。

今日営業部の哲也さんがメモ帳を手に、「8月3日の水曜日に予定している社員の社交会に出席できる?今回はパートナー同伴じゃなくて社員だけの集まりなんだけど。」と一人一人に聞いて廻っていました。私は夫にインスタントメッセージでその日彼に残業の予定がないかどうか確認した後で出席の返事をしましたが、そんな社交会なんて初耳です。どうやらまだ私が上記のインフォの一斉メールに登録する前にそれを使って誘いのメールを出していた様です。タワーブリッジを眺める河沿いのレストランの内の一軒で一緒に食事をするそうです。一平太さんは完全に欠席とは言わないけどたぶん欠席にしておいてと言っていました。彼らしい返事です。プライベートの時間は自分だけに秘めておく性質なのですね。皐月さんは出席するのかな~。皐月さん以外の人と仕事を離れて会った事はないのでどんな感じかとても楽しみです。